アメリカ中西部での生活、仕事、英語、スポーツ、文化に関する草の根評論
「阿る(おもねる)」事に無縁のアメリカ社会―――”Diesel-engine shipments secure”の新聞記事にみる納入業者の強さ
「阿る(おもねる)」という言葉があります。「人の意を迎えてへつらう」、「こびる」、「追従する」と広辞苑にはあります。弱い立場の人の生活の知恵でしょうか。「上役におもねる」、「お上におもねる」、「お客さんにおもねる」等、日本では昔から使われてきました。

現在はビジネス社会。顧客満足度を競う時代です。お客様は神様の時代です。納入業者(サプライヤー)は仕事を確保すべく、品質、値段、納入面で、お客さんの言う事には敏感に対応します。時には(いつもか?)お客さんの無理な要求にも涙を呑んで対応します。文字通りお客さんにおもねって企業活動をしています。

しかし、それに無縁の社会があります。アメリカ社会です。神の下では何人も自由な社会。納入業者はいかに相手のお客さんが大企業であれおもねる事はありません。これを新聞の記事から見てみましょう。

Fordへの納品をストップしたエンジン製造会社

少し旧聞に属しますが、3月9日のルイビルのThe Courier Journalという新聞のニュースからです(最近はネット新聞の読者囲い込み競争からか、登録制になりなかなか見られませんので本文で紹介します)。

主役はNavistarというエンジン製造会社です。この会社はFordにジーゼルエンジンを供給してきました。ところがFordではこのエンジン関連でリコールが発生。Fordはそのリコール改修費用の$125Million(約140億円)を、このNavistar社のエンジンに問題ありと断定、その費用を請求しました。

しかし「おもねる」事に無縁のアメリカ社会。Navistar社は、原因はFord側にあると反論して支払いを拒否。そこでFordはNavistar社の部品納入の支払い代金から相殺という手に出ました。

ここで引き下がらないのが閉塞日本社会のビジネスマンをスカッとさせてくれるわれらがNavistar社。ここで支払いが無ければエンジンの納入をストップするぞ、との事でエンジン納入をとめてしまいました。

おかげでFordの工場は一週間近く操業をストップせざるを得なくなりました。ここルイビルにFordの当該工場が二つあり、地元では大騒ぎです。Fordは販売不振とはいえ、他の工場を閉鎖していますので、このルイビル二工場は生産を期待されている工場。その影響はかなりのものです。

ここで、Fordは裁判所に訴えるという手段に出ました。アメリカではよくある解決策です。その裁判所の調停結果は「Navistarはエンジン納入を継続の事。Fordは代金支払いの事。リコールの責任問題は両者で継続交渉の事」でした。

この結果に対するNavistar社のスポークスマンのコメントは、

“I think this (consent injunction) represents a new spirit of corporation between the two companies.(この裁判所の命令に対する同意は両社の協働にとって新しい流れになるでしょう)”

というものです。どこにも「お客様に対して申し訳ありませんでした」だとか「お騒がせしました」等のおもねる内容ではありません。あくまで客は客、契約にのっとって主張する、受け入れられなければ権利行使をする、裁判になれば争うという姿勢で貫かれています。

日本であれば、リコールの責任問題はともかくお客様にご迷惑をかけないように、世間をお騒がせしないように納入だけは続けよう、ということになるでしょうか。

この胸のすくようなNavistar社の対応。アメリカ社会ではごく平均な姿です。当方の身の回りでも「お客さんの値下げには応じられませんので納入は遠慮させていただきます」といって部品の納入を突然ストップした会社や、「会社の路線転換でこの業務は中止しました。来月からは納入しません」といって今までの生産をやめて、取引先が混乱した事例は沢山あります。

これによりアメリカの産業、特にきめ細かな協働関係の必要な製造業等の競争力はそがれている面は否めませんが、ある面では歪んだ日本のビジネス社会を見てきている我々ビジネスマンにとってはこのNavistar社の対応、胸のすく快挙ではありませんか。




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コメント
この記事へのコメント
利益の一致で成り立つ商売。
こちらでは、商売というのは、売り手と買い手の利益の一致があって成立すると考えられているようですね。買い手もその製品を買うことが経済的利益に繋がらなければ購入しない訳です。。したがって、売り手も買い手が好意でその会社の製品を買ってくれるという理解をしてはいないと思います。
2007/03/21(水) 15:04:35 | URL | calperch #-[ 編集]
Calperchさん
日本でも最近はグローバルスタンダードでこういった取引が厳しくなりましたが、それでもまだ”ウェット”な関係ですね。

本エントリーのようなリコールの場合買い手も「まあうちも最終製造出荷の責務はあるので費用は半々だな」と言うのがが一番妥当な解決方法です。

又売り手の場合も、入金がなくなるとさすがに法的処置に訴えるでしょうが、大部分は「苦しくともここは泣いて一つお客さんのために頑張ろう」等になります。

これも双方の利益には違いありませんが、「あの納入業者を育成して将来の優良納入先にしよう」だとか「このお客さんに歯を食いしばってついて行き将来大きく育ててもらおう」等スパンの長い双方の利益を考えていますね。

日本はこれが製造業躍進の源泉の一部ですが、その分おもねることも多いようです。

2007/03/22(木) 13:41:33 | URL | いちろう #AtOU8eDY[ 編集]
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